セルロイドサロン
第85回
松尾 和彦
喫煙具とセルロイド


 「タスポ」という言葉をご存知でしょうか。今年(2008年)三月から以後は順次、このカードを 持っていないことには自動販売機でタバコを買えなくなります。これは未成年者の喫煙を防止するための措置です。

 最近では路上やタクシー内でも禁煙とされるようになっていて、そうでなくても狭かった愛煙家の肩身がますます小さくなっています。

 このタバコという言葉は世界的なもので、英語では"tobacco"、ドイツ語では"Tabak"、フランス語では"tabac"、スペイン・ポルトガル語では"tabaco"となります。日本ではポルトガル風にタバコと発音します。

 語源となったのはアラビア語の"tabaq"で、元はと言えば薬草の一種の名前でした。それがポルトガルに伝わると「薬草」という意味になりました。つまり"tabaco"という言葉はタバコが伝わる前からあったのです。

 この語源で分かるように煙草は薬だと考えられていました。特に呼吸器系疾患に効果があると思われていました。ところが実際は、これほど健康被害をもたらせるものはなく、もし科学が進んだ現在で発見されていたら、大麻よりも大きな被害をもたらす有害物質として世界中で禁止薬物に指定されることでしょう。何しろ世界中の一年間の死者の一割に相当する五百万人はタバコが原因で死亡しています。さらに現在の世界人口のうち六億五千万人は、将来タバコが原因で死亡すると考えられています。

 経済的損失も大きく、日本だけで年に四兆円に達するほどです。タバコの売り上げが年に三千億円ほどですから、如何に損失が大きいかがお分かりになると思います。

 このように健康被害、経済的損失をもたらすものですから喫煙率は年々減少していて、2006年には男41.3%・女12.4%となりました。四十年前には男83.7%・女18.0%だったのですから、低下しているのがよく分かります。特に男の喫煙率が下がっています。そのために家庭でも職場でも肩身の狭い思いをするようになるわけです。



 さんざんタバコの悪口を書いてきましたが、世界で最初のバリアフリー商品はタバコに関連したものでした。戦争で片腕を失った軍人がタバコを吸おうとしても片手ではマッチをすることが出来ませんでした。そのために考え出されたのがライターだったのです。なるほどライターを使えば、口にタバコをくわえて片手で火をつけることが出来ます。

 このライターの技術が最近では意外なところで使われています。携帯電話は今では日本だけで一億台を超えていますが、今のように小型化したのはライターの製造技術があったからです。

 携帯電話を小型化するためには電池を小型にする必要がありました。その小型電池はできたのですが、ケースが作れませんでした。そのため世界中のメーカーが悪戦苦闘したのですが、コストが高かったり製造工程が複雑だったりの問題がありました。万策尽きたころにライターの燃料ボックスを作っていた技術で電池ケースが作られたのです。携帯電話の電池ケースは今でも、その技術によって作られています。



 このタバコに関する喫煙具にもセルロイドが多く使用されています。代表的なものが煙草入れでしょう。煙草入れは琥珀、象牙、埋もれ木などで作られていましたから、代用品として使用されることが多かったセルロイドにとって得意分野となりました。

 半透明にすることの出来るセルロイドは、ケースに残っているタバコの本数が分かりますので使用する側も分かりやすかったことでしょう。

 巻タバコを入れるケースとしてだけではなく、刻みタバコを入れるケースや、嗅ぎタバコを一定量取り出すときに使う小さなスプーンにも使われていました。

 さらにライターに貼ってカラフルのものにするためにもセルロイドが使われました。



 このように喫煙具にもセルロイドは使われていました。横浜館では喫煙具と、関連する形でのライターなどのコレクションも取り揃えていますのでご訪問された時にはご覧になってください。

 タバコは健康被害をもたらせるものの代表ですから、出来ましたら禁煙をされてコレクションだけにとどめるようにしていただきたいものです。




著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。


セルロイドサロンの記事およびセルロイドライブラリ・メモワールハウスのサイトのコンテンツ情報等に関する法律的権利はすべてセルロイドライブラリ・メモワールハウスに帰属します。
許可なく転載、無断使用等はお断りいたします。コンタクトは当館の知的所有権担当がお伺いします。(電話 03-3585-8131)



連絡先: セルロイドライブラリ・メモワール
館長  岩井 薫生
電話 03(3585)8131
FAX  03(3588)1830



copyright 2008, Celluloid Library Memoir House