セルロイドサロン
第82回
松尾 和彦
京都嵯峨野想い出博物館を訪ねて


 世界遺産に指定され「千年の古都」と呼ばれている京都は、日本一の観光都市として一年中訪れる人が絶えることがありません。

中でも嵯峨嵐山一帯は夢想国師所縁の天竜寺、平家物語でお馴染みの祇王寺、かつては朝廷をも動かした大覚寺、かつては風葬が行われていて八千体もの石仏が並ぶ化野念仏寺、紅葉の名所として知られる二尊院などの古刹がいざなってくれます。

 寺院群だけではなく京都オルゴール館、嵐山オルゴール博物館、竹内栖鳳記念館、さがの人形の家などの博物館も数多く並んでいます。
保津川下りの船、トロッコ列車、人力車、レンタサイクルなどの乗り物で、これらを巡ってみるのも楽しいものです

 このような魅力あふれる場所ですからJR西日本も山陰本線に「嵯峨野線」という愛称をつけています。



 キューピー博士として知られている北川和夫氏の想い出博物館も、二尊院の門前にあって何時も多くの人々で賑わっています。

 入口には大きなキューピー人形があり、かつては誰もが口にしていたであろう駄菓子類が売られていて、名前の通りに想い出を引き出してくれます。

 この感は中に入るとさらに強くなります。一階では江戸時代、明治時代、大正時代、昭和戦前、軍国主義の時代、復興の時代、キャラクター全盛の時代などに分類された数多くの玩具類が、それぞれの時代の特色を見せています。

 例えば明治時代はリアリズムを追及していて、電車の玩具には乗客の顔などもはっきりと描かれています。また軍国主義の時代では暗くて不安だった時代を象徴する肉弾三勇士、担え筒の姿勢の兵士人形などが並んでいます。

 肖像権、著作権が確立している現在では無理ですが、双葉山、鏡里、大鵬などの横綱の人形、戦後の一時期は国民的英雄であった力道山などの人形もあります。さらには昭和三十四年の皇太子(今上天皇)ご成婚の時には、両殿下、妃殿下の顔写真の着せ替えなども作られました。



 これらのお人形の材質も陶磁器、アンチモニー、ブリキ、ソフトビニール等それぞれの時代を象徴するものが使われています。

 もちろんセルロイド全盛時代の玩具類も数多く並んでいます。セルロイド人形と言えば反射的に思い出されるのがキューピー人形ですが、来年二〇〇九年はキューピー誕生百年という記念すべき年です。

 一九○九年のレディースホームジャーナルに、それまで誰もが見た事の無かったキャラクターが登場しました。これこそキューピー誕生の瞬間です。最も当時は今と比べるとほっそりとしていましたが、少しふっくらとさせたことによって世界的な人気者となり、今でも数多くの人々に愛されています。

 中でも最もバリエーションに富んでいるのが日本で、北海道へ旅行しますとクラーク博士、ヒグマ、タラバガニ、札幌ラーメン、変わったところでは監獄のキューピーがあります。沖縄ではシーサー、ゴーヤー等のキューピーがあって各地の特色を現しています。貴方の郷里にも必ずご当地キューピーがありますから、一度調べて見られるのも面白いでしょう。

 また各大学の中でしか売られていないものや、はとバスの車内でのみ販売されているもの、空港だけのもの、水族館のもの、変わったところでは自衛隊の駐屯地内でしか売られていないものもあります。



 想い出博物館は北川さんが館長を務めているだけあって、二階はキューピー一色の世界です。これほど多数のキューピーを収集されている方は珍しいでしょう。

 もちろんセルロイドキューピーも小さなものから大きなものまで並んでいて、中には一体ウン十万円というものもあります。色のほうも珍しい黒色のキューピーも数多く見ることができます。

 かつて輸出品の花形として一世を風靡したパープー人形も、ここに来るとカーニバルキューピーという名前で呼ばれています。

 北川さんは一九九四年に日本キューピークラブを創立されて、キューピー通信を発行されるなど、数多くの本を出されています。
 このような方ですからローズ・オニール財団も日本の代表として認めたというわけです。



 この魅力的な博物館の開館は一九八八年ですから、今年で二十年となります。開館の時には「のらくろ」の作者として有名な田河水泡氏が呼ばれてテープカットをしました。その関係でというわけでもないでしょうが、のらくろ関連のお人形も数多く見られます。

 他にも「正ちゃんの冒険」「のんきな父さん」といった戦前の大人気キャラクターも迎えてくれます。



 京都嵯峨野想い出博物館へのルートは、JRの嵯峨嵐山、京福電鉄の嵐山、阪急電鉄の嵐山、トロッコ列車の嵐山の各駅から徒歩で二十~三十分です。時間がアバウトなのは各駅の所在場所が違うということもありますが、途中で迷いやすい場所にあるからです。でも嵯峨嵐山一帯は道に迷うこともまた魅力的な場所ですので、迷ったことを楽しいと思ってゆっくりと歩いて行きましょう。



著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。


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