セルロイドサロン
第16回
岡崎セル工業
岡崎忍
「セルロイドと万年筆など」こだわりの一品製作
初めに

 セルロイド万年筆について申し上げます前に私がいかにしてセルロイドと係りを持つようになりましたかを御説明いたします。

 私の会社岡崎セル工業は、香川県高松市出身の父房吉が丁稚奉公のような形で大阪に出てきまして修業を行いました後、大阪は住吉で大正九年(一九二○年)に独立して創設いたしました。

 その頃はインド向け腕輪の輸出が好調でしたので、そちらのほうを手がけました。その後、火事がありましたので昭和十一年(一九三六年)に当時は布施と言っていました東大阪市に移転しました。

 戦争が激しくなりましてからは内地向けの容器や湯桶の製造を行うことといたしました。幸いにも戦後すぐに製造を行うことが出来ましたので湯桶や櫛の製造を手がけました。その頃は櫛が八割、雑貨が二割で岡崎セルロイドカンパニーの頭文字を取りましてO.C.C.というブランド名をつけて売り出していました。

 ところが父が倒れましたので昭和二十七年(一九五二年)に後を継ぐこととなりました。幸いにも技術面につきましては門前の小僧で家業を見て手伝っていましたし、職人さんも十二、三人いましたので、なんとかやってまいりました。

 (株)小野由様を通じてダイセル化学工業(株)様よりお話があり(セルロイド製品)の製造加工の依頼を受けました。薄物、他社厚物は私の工場で加工するようになり従来の製品から新しい製品の発注を受け、加工しダイセル様に納品してまいりました。

 そして筆記具もやろうではないかと相談を受けボールペン、シャープペン、万年筆など最初はダイセル様の網干工場の関係者の方がパイプ製造に関する研究をされていました。それからパイプから完成品まで製造するように言われ私の工場に移し、製作工程の指導を受けパイプの加工をすることになりました。ところが手間と時間が掛かる割りに出来たものが不良が多く行き詰まることが多多ありました。

 このようにして仕事を行っていましたところ昭和五十七年(一九八二年)頃にダイセル様から話がありまして、翌年からダイセル様の仕事を手がけるようになりました。そして万年筆の仕事が持ちかけられたのです。

万年筆製造の苦労話

 ところが私は万年筆をはじめといたします筆記具の製造は全く経験が無かったものですから、大変な苦労を経験することとなりました。

 先ず、万年筆やボールペンの軸、キャップとなりますパイプを製造したことが無かったものですから、厚い生地の角を落として丸くしていくという方法を取りました。ところがセルロイドは切り難いものですからアセチロイドに切り替えました。そうすると今度は歪みが生じてクレームがつきますので再びセルロイドを用いることにいたしました。

 セルロイド万年筆の軸は、柄物のセルロイドブロックから13ミリ程度の角ブロックを削りだて、それをロクロにて丸く削りセルロイド万年筆の軸として加工製作されていました。

 しかしこの方法では側面の柄模様が流れ、特に輸出関係には不評で改善の必要がありました。

 これに対応するためには柄物のセルロイド板を丸く成型して酢酸アミルで接着してパイプを作りますと均一な柄を表現した万年筆軸を加工することが出来ます。

 そのためやはりパイプを製造することとなりました時から苦難の道が始まりました。パイプというものは平板を湯に漬けて、ラッパ状の管の中を通して巻くとともに反対側から引っ張り出して接着するのですが、これが言うは易く行うは難しで、先ず引っ張り出すと伸びてしまいました。それならばと冷却すると今度は動かなくなってしまうのです。ここが一番苦労した場所でしてサイジングの場所の長さが十センチですが、その先端部分三、四センチのところに水をかけて冷却すれば、伸びることも無く引っ張りだせると分かるまで約一年がかかりました。

 それでは工程表を書くことにいたします。
1.
生地
厚さ二ミリ、もしくは一ミリのセルロイド生地(平板)を用います。
2.
裁断
この生地を適当な長さ(630mm-700mm)に裁断します。
3.
パイプ巻き
生地を金型とともに九十ー百度の湯に漬けてラッパ状の管を通して引き出しながら順次平板からパイプ状に加工いたします。
4.
接着
この状態では巻いているだけで接着しているわけではないので、引き出されたパイプをSUSパイプに酢酸アミルが入っている中に短時間浸漬して断面を接着します。
5.
乾燥
四十度Cの熱風で乾燥するという方法もありますが、私のところでは二週間かけて自然乾燥させていました。
6.
裁断
セルロイドパイプを万年筆の本体、キャップの長さになるように裁断します。
7.
締め(プレスにて型締め)
パイプ状になっていますセルロイドを凸型、凹型の金型を用いて閉じます。この時も3の時と同じように九十ー百度の湯に漬けて柔らかくしながら行います。この時に十五パーセント位の割合で穴が開いてしまうことがありました。
8.
乾燥(伸び、くるいなど修正)
セルロイドは、どうしても縮んでしまいますので、その縮めを早くして商品になってから不具合が出ないようにします。私のところではこの工程はダイセルさんにお願いしていましたが大体一週間ぐらいかかりました。
9.
ロクロ(外周削り加工)
外周を調整のために削ります。
10.
羽布仕上げ(磨き加工)
磨きをかけて艶を出します。
11.
ねじ切り
万年筆の胴軸と首軸との接合部分にねじを切ります。
12.
金具付け
口金、留め具、クリップ、天ビスなどの金具をつけます。
13.
仕上げ
再び仕上げの磨きをかけます。最終的な仕上げは山崎工作所さん、加藤製作所さんにお願いしていました。

実際には百五十以上(メッキ、アルマイトなどの表面処理・装飾などを加えますと三百以上)の工程がありますが、大体の工程はこのようになります。またペン先には五十五の工程があります。

 このようにセルロイド万年筆の製作は大変な手間が掛かりますし、乾燥が充分でないと変形したりしてしまうことになってしまいます。しかしそれだからこそやり甲斐のある素材でして、また持っていただくと分かりますが何ともいえない感触がある魅力ある素材です。
 

なお、この原稿は松尾 和彦氏によって纏められました。

連絡先: セルロイドライブラリ・メモワール
館長  岩井 薫生
電話 03(3585)8131
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