セルロイドサロン
第129回
松尾 和彦
偶然が生んだ大発明



 パン、コーヒー、ビネガー、麻酔、キニーネ、燐寸、レーヨン。これらの共通点は何でしょう。それは偶然によって生まれたということです。例えばパンは主人のためにケーキを焼こうとしていた奴隷が眠ってしまい火が消えているのに気がつきませんでした。目が覚めてから焼いたところ、何時もよりふっくらとして美味しくなっていました。こうして今でも食べられているタイプのパンが出来たのです。



 セルロイドが偶然のものということは有名な話ですが、もう一度話すことにいたしましょう。

 おがくずと紙をくっつけた混合物で象牙の代用品を作ろうとしていたハイアットは実験中に指を切ってしまいました。その時にコロジオンを塗ろうとしてこぼしてしまいます。溶剤が蒸発した後にシート状のものが残っていました。これがセルロイドの発明につながったということです。

 嘘か真実か分からない話ですが今に伝わっています。



 そのセルロイドの主原料であるニトロセルロースも偶然によるものです。スイスバーゼル大学の教授であったシェーンベルグは硝石と硫酸とが入ったフラスコを壊してしまいます。拭き取ろうにもモップがありません。そのため妻のエプロンで拭き取ります。乾かそうとストーブの前においていたところ燃え上がってなくなってしまいました。そのエプロンは綿(セルロース)だったのです。硫酸と硝石から出来た硝酸、そしてセルロースとが揃ってニトロセルロースとなったというわけです。



 ニトロセルロースと同じようにして生まれたのがレーヨンです。人工的な絹を作ろうとしていたフランスの化学者シャルドンネは、エーテルとアルコールの溶剤にニトロセルロースを溶かしたものが入っていたビンをひっくりかえしてしまいます。写真の実験を行っていたシャルドンネは直ぐにふき取りませんでした。しばらくしてから見ると溶剤の一部が蒸発していて濃いねばねばしたものが残っていました。それをすくい取ろうとすると長くて薄い繊維となりました。これが人口の絹すなわちレーヨンの発明となったわけです。



 セルロイドが最初の熱可塑性樹脂なら最初の熱硬化性樹脂はベークライトですが、同じように偶然によって生まれたものです。

 人工的なセラック樹脂の研究を行っていたレオ・ベークランドはフェノールとホルムアルデヒドで実験していましたが上手くいきませんでした。そこで発想を逆転させます。混合物が粘着性があるのなら抑えるのではなくて強めよう、冷やすのではなくて熱しよう、圧力を取ろうとしていたが加えよう。そうして出来あがった樹脂は酸にも電気にも熱にも影響されず電気も通しませんでした。

 この樹脂はベークライトと名付けられ電気コネクター、熱シールド、エンジン部品、飛行機のプロペラ、電気付属品などセルロイドでは果たせなかった分野に利用されるようになったのです。



 このように大発明というものの中には偶然によって生まれたものが数多く見られます。もしかしたら貴方も大発明を生み出すかもしれませんので、偶然を見逃さないようにしてください。




2011年08月11日記す


著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。


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