研究調査報告書
セルロイドハウス 学術担当
佐藤 功
セルロイド金型の調査構想

1.調査動機
 セルロイドハウスには他に例を見ない大量の金型が収蔵されている。プラスチックの成形技術の多くがセルロイドの時代にルーツを持つ原と言われているが、当時の状況はもちろん、どのようなイノベーションを経て今日に至っているかはよく分かっていない。多くのもの作りがそうであるように技術が人から人へ伝えられ、文書化される機会がなかったためであろう。
 デジタル時代に入り、プラスチック加工法は大きく変貌をしようとしているがその行先は見えていない。ルーツを知ることで行く末が見通せるかもしれない。そんな想いを抱きながら膨大な金型から往時の技術、技能を探り出し、先人の知恵を吸収しようと調査に取り組むこととした。


2.調査計画
(1)第一段階
 この種の調査は収蔵品を整理し全容を把握することがまず求められる。この地道な作業から取り掛かる。
 a.目標
  ・保有金型の全容を知り、素データベースを構築する。
  ・上記から妥当なデータベースを設計する。
  ・各金型に込められている技術を読み取り、加工技術体系を明らかにする。
 b.当面の調査
  セルロイドの成形法は、表1に示すように、
   ・中空体成形の吹き込み
   ・厚物成形の圧搾
   ・容器など薄物成形の型締め
   ・その他
  の4種類に分けられる。そこで各成形法について、それぞれの金型に連番を打ち、リスト、写真集(デジタル画像)を作成する。

 表1 セルロイド成形法の分類
種類 松尾*1 平野*2 関戸*3 製品例 備考
中空体  吹き込み法  吹込加工 吹き込み型  人形、玩具    
火熱吹込法
厚肉品 圧搾法   二割型 めがね、櫛 プレス
薄肉品  型締め法  押型加工 押型  筆箱  ケトバシ
 
湯型加工
湯締め    紋型
木型
挿入棒型
他  注記参照

 (注) 湯締め: 湯の中で雌型にシートをボンズ締めする
     紋 型: 雄型がゴム
     木 型: 成形法は型締法と同じ
     挿入棒型: 筒状容器など

(2)第二段階
 リスト完成後 a.データーベース設計と作成
          b.具体的テーマを設定し、個別研究に移行する
(テーマ例)
 調査が進むに従って様々なテーマが出てくると思われるが、現時点でのテーマ案を列挙する。
<型締め型>
・しわ押さえ:
 原料板を雌型に固定し、成形時のシワ発生を防いでいるものがある。しわ押さえのメカニズム、加圧力、適用製品などを明らかにしたい。
・離型法:
 ストリッパープレート(離型機構)が付いている金型がある。どんなケースで使われ、どんなメカニズムがあるかを調査したい。
・成形現場の実情:
 ガムテープで補修した金型があるが、こんな簡易な補修が出来るのだろうか。収蔵されている金型は上型、下型が必ずしも一対になっていない。モノによってはコアだけ、あるいはキャビティ側のみ作り、反対側は他型を流用していたのではなかったかと思われる。このような現場での運用上の実情を型を通して明らかにしたい。

<圧搾型>
・アンダーカット:
 圧搾型を見て驚くのは大胆なムリ抜きだ。プラスチックでは10%が限界だと言われているが、これを上回るものがある。セルロイドの可塑特性に驚く。どのくらいのアンダーカットが可能だったかを金型から定量的に追って見たい。
・記号解読:
 圧搾型には数字など様々な記号が付いているものがある。これらを集め、その意味を知り、型理解の一助にしたい。
・製作法:
 セルロイドサロンで松尾(1)は粘土型、石膏型を経る鋳造型を紹介している。圧搾型には仕上がりから鋳造とは思えないものもある。収蔵品の中には未完成品や、失敗して裏側に彫りなおしたものを見かける。これらから金型の製作法を探りたい。
・溶接、切断、打痕:
 多数個取りの金型を蝋付けして多数個取りにしたり、多数個取りの金型を切り離したものを良く見かける。また、金づちで強打して角が変形した金型も良く見かける。これらから成形作業の実態を探りたい。
・型寸法:
 金型は矩形が多いが中には八角形やひし形のものもある。大きさ、型厚は様々だ。標準化されていない事情、理由を検討したい。
・離型法:
 型締めが離型装置を具えているのに対し、圧搾型は何もない。特にアンダーカット率が高い時どうやって離型していたか知りたい。

<中空>
・合わせ部形状:
 中空成形では2枚の板材を金型で挟み、間に空気を吹き込んで中空体を成形する。この時、型合わせ面では両板の融着と喰い切りを同時に行っている。したがってこの部分の設計は製品性能、外観、生産効率に大きな影響を与える。この部分にどのような工夫がなされているかを明らかにしたい。
・空気流路設計:
 小物成形では多数個取りしており、多くの場合、空気はキャビティを直列に流れる。
この流路の確保法の工夫、原則などを調べたい。


3.調査状況
 現物を見ながらリストを作成している。この段階で何らかの分類法に沿って整理するべきであるが、根拠となる知見を持ち合わせていない状況での作業なので、成形手法ごとに順不同にリスト化している。この作業が終わった段階で分類法などを思いつけば再構成することにしたい。
(1)型締め
 上下ペアで構成されているが、バラバラで収蔵されたものもあるので組み合わせが分かるよう、図1のような個票でデータベース化した。成形品サンプルのあるものはこれも記録している。約40型のリストアップを終え、パソコンで閲覧可能だ。
         

     図1 型締め型個票例
    

(2)圧搾型
 小型で多数収蔵されている。型構成は簡単なので、大きさが分かるよう、寸法を調べている。約500型のリストアップを終えた。

     図2 圧搾型個票例
    

(3)中空型
 まだ着手していないが、1000型程度収蔵されている。図3のように、輸出向けであることが分かるものもある。

     図3 Made in Oqupied Japanの銘が入った中空型
    


4.結言
 金型を凝視し先人の技の痕跡を発見することは楽しい。しかし、この作業がいつ終わるともしれない。未整理の金型を見ると、気が遠くなる。こんな時「こんなことを続けていても何も出てこないのではないだろうか」「私が見つけたことはすでに知られたことではなかろうか」「もっとうまい調べ方があるのではないだろうか」と様々な邪念が浮かぶ。
 セルロイド成形、金型について興味をお持ちの方、経験、知見をお持ちの方、ぜひ応援してください。調査の方法論、成形、金型に関する知見をお寄せいただけるとありがたい。


5.参照文献
 *1 松尾、セルロイドサロン72
 *2 平野、セルロイド応用模型の作り方
 *3 関戸、セルロイド加工法


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