岩井館長による講演 見学記


松尾 和彦


 去る2011年(平成二十三年)2月26日、物流博物館(東京都港区高輪4-7-15)において当セルロイドハウス横浜館の岩井館長による「セルロイド産業の盛衰―社会と文化に与えた衝撃」と題する講演会が行われました。この講演の内容を書きます前に見学記とさせていただきます。

 会場となりました物流博物館は名前の通り物流に関する展示を行っている博物館です。物は生産するだけではいけません。生産者から消費者へと流れていかないといけません。でないと生産地では折角出来た品物が山積みとなります。食品などは腐ってしまうでしょう。一方消費地には物がやってきませんので飢えてしまいます。人間が自給自足の生活から脱した時に生まれた古くて新しい、そして永遠に無くなることの無い仕事、それが物流です。

 物流はただ単に物を運ぶだけではありません。物を大事に保存しておく保管、積み下ろしを行う荷役、汚れたり壊れたりがないようにするための包装、値札付け、品揃え、検査、組み立てなどの流通加工、商品がどこにあるかどこに運ばれて行っているかなどを知る情報管理、これらが総て揃っているのが物流です。

 物流博物館は業界最大手の日本通運が本社内に創設した「通運資料室」を母体として生まれました。現在では財団法人利用運送振興会に管理運営が委ねられています。

 展示内容としては江戸時代の物流制度、明治以降の制度などで映像が流れるとともに自分でも体験できるようになっています。中でも面白いのが飛脚や運送業者などに変身できることでしょう。天秤棒を担いで重みを感じることも出来ます。ゲームもありますので子供達も喜ぶ施設となっています。

 岩井館長の講演は、この物流博物館の二階にあります映像展示室で開かれました。今回の主催であります東京産業考古学界の田口会長の挨拶に続いて行われました。

 先ずは最近発見されましたフィルムを上映いたしました。このフィルムはセルロイド産業文化研究会の人間にはお馴染みのもので、内容からすると1938年(昭和十三年)に製作されたもののようでセルロイド工場の内部映像、セルロイドの製造方法、人形の製作風景などが紹介されていて、日本が製造量一番であること、原料等は総て日本国内で調達可能なものであることなどが示されたものです。

 セルロイドはある程度以上の年齢の方には特別な響きを持った言葉で、当日出席した約四十人の方々から「ああ、これあった」「わあ、懐かしい」などの言葉があちこちで上がりました。特に横浜館を紹介している時に筆箱、石鹸箱、裁縫箱、化粧道具などが映し出される度に感嘆の声が聞かれました。

 セルロイドが日本で生産されるようになった理由として主要原料の一つである樟脳の大生産地台湾が日清戦争の結果日本の領土となったことが大きいと言われていますが、それだけでは製造はともかく加工が世界一とはなりません。日本には鼈甲職人、細工師などの工芸的職人技術があったのです。

 この工芸的職人技術はヨーロッパのギルドにも伝わっていたものです。そのためセルロイド製のグリーティングカードが数多く作られました。グリーティングカードは元は象牙を薄く削って作ったものです。大変に高価なものでしたので細かな字をびっしりとならべました。当然のことながら金持ち階級にしか手に入らないものでした。それがセルロイド製のものが出回ったので一般の人々の手にもはいるようになりました。横浜館でのコレクションは日本一、おそらくは世界一でしょう。カードでありがたいことは切手が貼られていて消印が押されているために時代と国が判明するということです。

 これに対してアメリカは即物的なものを求める国柄で写真、映画などが発達しました。この分野でもセルロイドが活用されたということも紹介しました。

 樟脳で言えばドイツで合成樟脳が発明されたこと、そのために樟脳生産量が激減したことなども紹介しました。ただしこの点につきましては減少していないとのデータもあり今後の検討課題となっています。

 館長の講演は多岐に渡りましたので予定時間に収まりきらなかったのですが閉館時間が迫ってきましたのでやむなく終了といたしました。そのため懇親会にも十名程の方が出席されて話の花を咲かせることとなりました。

 今後ともこのような講演依頼がありましたらどしどし引き受けていきたいものです。



著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。


セルロイドサロンの記事およびセルロイドライブラリ・メモワールハウスのサイトのコンテンツ情報等に関する法律的権利はすべてセルロイドライブラリ・メモワールハウスに帰属します。
許可なく転載、無断使用等はお断りいたします。コンタクトは当館の知的所有権担当がお伺いします。(電話 03-3585-8131)



copyright 2011, Celluloid Library Memoir House